100%な朝を迎える方法

平凡な毎日の何気ない出来事を切り取っていく

創作

「あくび」

長ぇな、この話 堪えても堪えても湧き上がるあくびを噛み殺す目尻に溜まる涙を額の汗を拭く仕草で眼に押しあてて話を聞き続けるああ、マスクがあってよかったとふと思ったりする 頭の中は布団への憧れに支配され暖かな毛布に包まれて安堵の吐息をつきながら…

「対話」

そいつは本当に弱くって常に悲観的ですぐに落ち込んでそのくせお調子者で八方美人でかなり怠け者でそれで我に帰って反省すると自己嫌悪になって神経質になってあれこれ考えてほらまた精神が崩れかけている だから都度都度話しかけてやるんだ心の中の状態を冷…

「応援団」

トンボが飛び交い 鈴虫が鳴いていた 黄色いテープを巻いたペットボトルを二本抱えて屋上に向かう声が出ていないと居残りを言い渡された放課後たっぷり応援団の先輩方が一年生の声が出るまでしごき倒すらしい この中学校の伝統行事で部活動さえも運動会までは…

「悲しい結末」

7回裏の6点差ツーアウト満塁カウントはツースリー最後のボールは明らかに大きく外れてミットに収まった 小学生の時からボールを追っかけていた投げて捕って打つそんな単純なことがただ面白かったはずだった入った高校はチームを作れるほど部員がいなかった最…

「ふとした事から」

それは何かの集まりの後だった両親と母の兄弟夫婦それそぞれの子供たちが自営を営む広い祖母の家に集まった20人くらいがつい先ほどまで料亭で飯を食べ日が暮れたあと流れ着いた僕は久しぶりにいとこたちと会えて楽しくてしょうがなかった 大人たちは煙草を吸…

「落とし物」

少年は両親と一緒にショッピングモールに出かけていたいつものお菓子コーナーで何を買ってもらおうかいそいそと物色していると棚の下に何かが落ちているのを見つけた手に取ると女性ものの財布のようだった 母親にその存在を知らせ父親もこれは持ち主もさぞ困…

「サラダうどん」

私と娘は本をよく読む嫁は雑誌以外読んでいるのをみたことがない 以前、図書館や本屋によく連れ立って行った際必ずうんこがしたくなるとトイレに向かうのを見て奇病か!と訝ったが結構あるあるらしい情報が冊子以外からでも十分知りえる現代最近では本のある…

「違う今日」

電車が駅に到着してゾロゾロと乗客が降りる中隣の降り口から張り上げる声が聞こえるバタバタと激しい動きが隣の扉からでも見える“降りろ警察だ” “ちゃんと見ていたんだよ”かなりの悶着の中ひとりの男が引きずり出された野次馬が遠巻きに囲み 車内からの視線…

「仕事があることがありがたい」

勤務先が閉鎖になるそのことで酷くおちこんでいた支店のひとつが無くなるだけなので仕事の補償はされている僕は来月から違うところに配属されるだけだだけど、長くいた場所だから気持ちは未だ整理つかずこれを機会に次も見つけていないのに辞めてしまおうか…

「残像」

帰りの乗換のホームのこと高校の時使っていた駅と似ていてもちろん場所も路線も違うのだけど夜になるとなおのこと蛍光灯やら階段やら見える景色に切なくなるあの時と同じような場所でついつい立っていることに気づく 塾の帰り乗り継ぎの悪い電車を待ちながら…

「ゆでたまご」

悪い報せはやっぱり 未明にやってくるものなんだ 留守電にその知らせは入っていた 淡々と母親が事実のみを伝えて切れていた ああ、ついにこの日が来たのかと 深く深呼吸をした 夏の暑い夜に 静かに祖母は亡くなった そろそろ覚悟しておけと 母親に言われてか…

「遺失物」

帰りの道中で、ある物が無くなっていることに気づいたいつも入れているズボンのポケットに手を入れても無い あれ、鞄にしまったっけと目ぼしい部分を見ても無いついには鞄を下ろして中身を隅々まで見たけど無い思い当たる節があってきっと会社に忘れてきたの…

「ネットワーク」

少し遅めのモーニングをファミレスまで食べに行った平日もっあって人もまばらで店員も少数で奥のキッチンも静かだった最近では珍しくもないタブレットのメニューそして最近目にする机まで運んでくる配膳ロボット ツレが言う 人の仕事はどんどんロボットに奪…

「作品」

小学生の娘の夏の宿題で防災のポスター作成が出された多少絵心のある父親がある夏の夜に日本酒をチビチビ呑み娘の絵に助言し筆を片手にほろ酔い気分で手心を加えていくとおお、なかなかいい絵が出来上がった これはもしかしたら佳作ぐらいいけるんじゃないか…

「いまここ」

ひどく心が乱れた日が続いていて多忙な仕事が頭から離れなかった ある日の夜産科病院のサービスとしてディナーに招待された頑張ったお母さんにそしてそのパートナーに美味しい夕食を振舞ってくれるのだ ひどく疲弊していて身体がだるいしかし楽しみにしてい…

「おやすみ」

今日もいろいろあったんですそれでもせこせこと過ぎていきました心はあんまり満たされないけどできる限りで今日頑張れたことちょっとだけ自分を誉めてあげましょうよいろいろ悩みも多いけれど悩んでどうにか成りもしないなら今日のところはゆっくり休んで明…

「どう言ったら」

コロナ対策で定期的に多くの方が触れる場所を拭き消毒する所定の箇所を手際よく回って数十分ある場所で小さな子供が何やってんの?といった顔で見上げてくる ほらほら行くよ、と手を引く若いお母さん立ち去り際に「大変ですね」って声かけられた咄嗟なことで…

「更新」

盛夏の折に届いた免許更新の通知をもう少し涼しくなってからじゃないと汗みずくの暑苦しい顔が収まってしまうだろうとほっておいたら、すっかり忘れて期限間際になってしまった 明日こそ取った休みで行かなければとぐうたらな心を戒め普段は見ることもない財…

「夜中の出来事」

夜中三時に不意に目が覚めた無意識に冷蔵庫の前に特にノドも渇いていないのにコーラを二口 歯を磨き忘れていたので磨きがてらにテレビを付けると 派遣切りされた男が職も見つからず二人の小さい子供と嫁をかかえ借家を追われ生保になるというドキュメントが…

「図書館」

昼下がりの一番暑い時間の図書館の中は適度な心地よさだった あるコーナーの棚をあてもなく目で追うと下段の項目群に興味を惹かれしゃがんだ姿勢で数冊本を開く右手にだいぶお腹の大きな妊婦さんが同じ棚を順に追っていて大変だな、なんて思いながら構わず物…

「煙草」

電子タバコを切らせて鞄の奥底に潰れていた紙巻きタバコを久しぶりにふかした火をつけて最初のひと吸いをするとひと夏の海辺を思い出す 僕達は海に来ていた肩を並べて同級生と海をみている 「BIGになってやるよ」なにでBIGになるんだよ…「何処にいてもわかる…

「アルファロメオの男」

履いているのは先の尖った靴携えている長いもみあげ長身細身のスーツを着込んで煙草を燻らせながら呑気に歩いて出社する どんなトラブルにも優雅に対応して焦る姿など見たことがないいつも落ち着いていて声を荒げることもないバツイチであるがそれに気負いは…

「破損」

朝出がけにコードに引っ掛けてタブレットを落としてしまったある起点から放射状に亀裂が走っている“携帯が割れている女はだらしがない”などとかねてから思っていた彼なのにその時はそれほどショックではなかった しかしながら駅までの道すがら歩いているとじ…

「時空を泳ぐ」

6時35分に3回目の目覚ましで起きる5分微睡んでシャワーを浴びるいつものチャンネルで時間を測って着替えるそのテレビは必ず7時ぴったりに煽り運転やら監視カメラやらのトピックスを流すので胸糞悪い気分になって外に出るそれで会社には8時10分には着く始業の…

「蜘蛛の糸」

夜中に一人で残業をしていると天井に吊るしているパソコンのLAN線から小さな蜘蛛が降りてくる一度降りてきては上がってを繰り返して煩わしかったのでボールペンで絡めて手繰り寄せる 隣の机の同僚は蚊はがんがん殺すくせに蜘蛛を殺すと怒るらしいそんなこと…

「ついて出た言葉」

よりによってこんな日にと家から窓の外を眺める昨夜からの大粒の雪はとどまる事を知らず空からどんどん降りてくる 今日の日のために買っておいた指輪今日は僕の大切な人の成人式だったなのに計画していた色々はそれで全部反故になってしまった でも心は決ま…

「六人目」

17歳の時家に子犬が来た妹が毎日散歩に連れていくらからどうしても欲しいと両親にせがんで我が家に初めての動物を迎えた6人目の家族なので「ロク」と名付けた 黒毛のよちよち歩きの子犬はこたつの柱にうんこをし専業主婦だった母のエプロンのポケットにすっ…

「聞き上手」

なんだか、よくくだらない話を延々と聞かされることがある時期も人も場所も違うのによくもまぁ似たような人種が寄ってくるものだと呆れる 話をしていてすぐに勘づくああ、これはいつものやばいやつだと面白くもなんともないおい、オチは?と言いたくなるお前…

「寝坊」

時計を見ると出発時間をとうに過ぎていたぼやける頭を整理する休みではないやっぱり今日は仕事だと焦る地味に間に合うかどうかきわきわだ神様は絶妙に勝負をかける何とか間に合う方法を模索する顔を洗いながら厳しいと知る それで服を着替えながら言い訳を探…

「ギアを変える」

ギアをローに入れてクラッチを少し上げるエンジンが繋がる感触を得て車が少しずつ動き出す ローからセカンドにセカンドからサードを経てトップ左手はずっとギアの上に乗せている信号待ちの停車ではエンストを恐れてクラッチは切れているにもかかわらず癖のよ…